こんにちは。ランシステムのヒロ田中です。
みなさん、総務省が毎年公開している「インターネットトラブル事例集」をご存知でしょうか。先日、近時の新たなトラブル事例を反映した「2026年版」が公開されました。
「子ども向けの資料でしょ?」と思われるかもしれません。確かにこの資料は、主に青少年の安心・安全なインターネット利用を目的とした啓発ガイドとして作成されています。しかし中身を開いてみると、実は私たち大人、そして企業で働く従業員にとっても「ハッとする」ような、極めて実践的な内容が詰まっているのです。
今回は、この2026年版トラブル事例集から読み取れる最新のサイバー脅威の実態と、企業がこの優れた無償コンテンツを自社の教育にどう活用すべきか、その具体的なアプローチにフォーカスしてお話ししたいと思います。

https://www.soumu.go.jp/use_the_internet_wisely/trouble/
2026年版のアップデート――今、何が起きているのか?
今回の更新で特に目を引くのは、社会情勢の変化を鋭く反映した新しい脅威への対応です。
その筆頭が、生成AIによる「ディープフェイク」の脅威です。青少年が生成AIによって自身の顔写真を性的な画像に加工される被害が散見されており、報道等でも大きく取り上げられました。これを受け、被害に遭うことや、逆に加害者になってしまうことがないよう、ディープフェイクに関する注意喚起を目的とした特集が新たに追加されています。
生成AIの普及は、企業にとっても無縁ではありません。IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」組織編でも「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が初めてランクインしたように、企業が管理していないAIに機密情報を入力してしまう「シャドーAI」や、AIがもっともらしい誤情報を生成する「ハルシネーション」のリスクが懸念されています。
さらに、近年大きな社会問題となっている「高額バイト、お小遣い稼ぎのつもりが思わぬ事態に!」という「闇バイト」の事例や、「良かれと思って拡散した情報がデマだった?!」といった偽・誤情報のリスクについても、最新のトラブル事例としてマンガやイラストを用いて分かりやすく解説されています。また、「著作権について知っておこう」「オンラインカジノは犯罪です!」といった既存の特集ページも、最新の状況を踏まえて内容が更新されました。
性的画像加工やなりすまし。加害者・被害者両面のリスクを解説。
SNS発の犯罪加担、デマの拡散。マンガを用いた直感的な啓発アプローチ。
シャドーAIやハルシネーション。企業環境下での「不適切な入力」への警告。

もしもの時の「初動」を学ぶ重要性
今回の事例集で個人的に非常に素晴らしいと感じたのが、「トラブルが起きた後の対応」に踏み込んでいる点です。
事例集を活用したワークショップに参加した中高生から、「実際にネットのトラブルに遭ったときの対処法がもっと詳しく知りたい」という声が上がったそうです。これを受け、インターネット上でトラブルに遭ったときの初動対応のポイントや、相談窓口の利用について解説する特集ページが新たに掲載されました。
これは、ビジネスの現場でも全く同じことが言えます。従業員が不審なメールのリンクを踏んでしまった、あるいは個人のSNSで不用意な投稿をしてしまった時、「怒られるかもしれない」と隠蔽してしまうのが、組織にとって最大のリスクです。トラブルが起きた時にどう初動対応をとるべきか、誰に(どこに)相談すべきかを平時から知っておくことは、被害を最小限に食い止めるための絶対条件となります。
- 事実の早期報告
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「隠蔽」は最大のリスク。平時から報告しやすい心理的安全性を構築。
- 外部相談窓口の把握
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総務省・警察等の公的窓口リストを従業員と共有。
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- 組織の被害最小化
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システム的防御(MFA/EDR)と個人の「初動判断」を組み合わせることで、 インシデントの拡大を物理的・社会的の両面から阻止します。
企業研修における「事例集」の実践的活用法
では、企業はこの事例集をどのように生かすべきでしょうか。私は、新入社員研修や定期的なコンプライアンス教育、情報リテラシー研修の教材として、そのままフル活用することを強くお勧めします。
この事例集は、一斉指導やグループ学習など多様な学びの場面で活用できるよう、事例ごとに「タイトルと概要」「マンガ」「考えてみよう」「解説」「ポイント」という構成になっています。
例えば、以下のような使い方が考えられます。
- 若手社員向けのSNS研修: 「知らずに違法!? 作品画像やイラストのSNS投稿」や「悪ふざけなどの不適切な投稿」といった事例を用い、企業アカウントや個人アカウントでの発信リスクを考えさせます。
- リモートワーク環境のセキュリティ教育: 「セキュリティのないフリー Wi-Fi を使っても大丈夫?」というテーマは、カフェや外出先での業務が多い営業担当者への啓発に最適です。
- ビジネスコミュニケーションの基礎: 「文字だけのコミュニケーションは意外と難しい!?」という事例は、社内のチャットツール(SlackやTeamsなど)でのテキストコミュニケーションにおける齟齬を防ぐための良い題材になります。
- フィッシング対策: 「個人情報の再設定など不安をあおるメールに要注意!」を使い、詐欺の手口を学びます。
「不適切な投稿」「著作権侵害」
個人アカウントが企業ブランドに与える影響をマンガ事例で自分事化させる。
「フリーWi-Fiの罠」「個人情報再設定」
外出先での通信リスクと、巧妙化するフィッシング詐欺への警戒心を高める。
「文字だけの情報の難しさ」
チャットツール上の齟齬を防ぎ、心理的摩擦によるトラブルを未然に防ぐ。
「自社で起きたら?」を話し合う
事例集のワークシートを活用し、参加型形式で規程への理解度を劇的に向上させる。
単に「セキュリティ規程を読みなさい」と指示するだけでは、人はなかなか動きません。事例集の「マンガ」を読んで、グループワークで「自分ならどうするか」「自社で起きたらどうなるか」を話し合うアクティブラーニングの形式をとることで、従業員の腹落ち感は劇的に高まります。
なお、この事例集やワークシートは、ICTリテラシーの向上に資する取組に向けて利用する場合、自由に使うことができると明記されています(営利目的での使用を除く)。GIGA端末での閲覧にも適した印刷用データや、冊子版のPDFも提供されており、これほど質の高い教材を使わない手はありません。
技術と人の「両輪」で守る組織づくり
昨今のサイバー攻撃は極めて高度化しており、テレワークやクラウド利用が標準化した現在のビジネス環境では、従来の「境界線」を守る対策だけでは不十分です。多要素認証(MFA)による認証強化はもちろん、エンドポイントにおいて「侵入を前提とした」多層防御を構築することが不可欠となっています。
特に重要となるのが、既知の脅威を遮断するEPP(Endpoint Protection Platform)に加え、万が一の侵入時に不審な挙動をリアルタイムで検知・対処するEDR(Endpoint Detection and Response)の導入です。この「事後対応」の仕組みこそが、被害を最小限に食い止めるサイバーレジリエンスの鍵となります。
しかし、どれほど強固なシステムを構築しても、それを利用する「人」のリテラシーが追いついていなければ、セキュリティの穴は容易に開いてしまいます。「自分は大丈夫」という思い込みを捨て、インターネットにはワナや悪意が潜んでいる可能性があることを常に想像する姿勢が必要です。
まずは一度、総務省のサイトから最新の事例集をダウンロードしてみてください。そして、自社のセキュリティ教育のアップデートに役立ててみてはいかがでしょうか。




