著者:荻野 正之介
伝説の「ジクー day」
当時の自遊空間では「19日」。
それは現場スタッフが、前日から膝の屈伸運動を始めるほど恐れる「ジクー day(席料半額)」である。
空席待ちの列は伸び、店内はさながら戦場。
店長の「休憩中も応援に来てね(=休憩はないものと思え)」という無慈悲な号令が飛ぶ中、我々調査チームは現場に立っていた。
物理の限界へ:ダスター2倍、速度は2倍
ベテラン店長から授かった秘伝の奥義は、驚くほどアナログだった。
道具を2倍持て。さすれば掃除は2倍速くなる
我々は教えに従い、両手に溢れんばかりのダスターとアルコール、腰には2倍のゴミ袋を装備。
群馬の大型店舗を戦場に選んだ。
結果は劇的だった。確かに清掃は早くなった。
しかし、我々は決定的な「店舗の広さ」という物理法則を忘れていたのである。
無慈悲な「追いダッシュ」
124番ブースを仕上げ、さらに離れたカラオケ8番ルームを壊滅(清掃)させて意気揚々とカウンターへ帰還。
その距離、片道およそ200メートル。
ところが、カウンターのモニターに映し出されたのは、
今しがた掃除を終えたブースの「すぐ隣」が清掃待ちになったという無情なサイン。
いま、……そこ通ってきたばかりじゃん……
膝から崩れ落ちそうになる我々に、バイトスタッフが眩しすぎる笑顔で追い打ちをかける。
次、126番お願いしまーす!頑張ってくださいっ!
往復400メートルの無益なマラソン。
やっと戻れば「飲食オーダー入りましたぁ!」というキラキラした声。
我々のライフはもうゼロだ。
「文明の利器」は、筋肉痛から生まれた
ホテルへ這い戻り、湿布を貼りながら確信した。
カウンターに戻らないと状況がわからないという仕組み自体が、人類には早すぎる苦行なのだと。
現場で清掃完了を入力でき、次のタスクが見える。
そんな魔法の杖があれば、従業員の足の裏の皮は守られ、お客様の待ち時間も減るはずだ
この「無限ダッシュループ」という名の地獄から脱却するために開発されたのが、現在の『清掃解除端末』である。
今、スタッフがスマートに端末を操作する姿を見るたび、我々は思い出す。
あの群馬の空の下、ダスターを両手に握りしめて全力疾走した、あの19日のことを――。
教訓:知恵のない努力は「往復400メートルの絶望」を生み、現場の悲鳴は「テクノロジー」を生む。
次回
第4回 毎月2000万円売らないと半年で会社つぶれるからな!?150台のパソコン通信を快適にせよ!
